六月二四日 夕立の話
「うわー。どしゃ降りだ」
夕飯の買い出しを終え、俺とともにスーパーを出た同居人のセイが言った。家を出るときは晴れていて、雨が降るなんて思っていなかったから、二人とも傘は持っていない。傘を買って余計な出費をするのも嫌だ。
「どうするよ、セイ。止むまで待つか?」
洗濯物は取り込んできたから急いで帰る必要はない。雷はなっているけれど、遠くの空が明るいから日が暮れる前には止みそうだ。
「ひどくなっても嫌だしなあ……。走って帰ろうぜ」
そう言って、買い物袋の持ち手を縛り抱えこむと、セイは走り出した。
「あ、おいっ」
俺は慌てて後を追いかける。いつから降っていたのだろう。道には水溜まりができていて、それらを避けずに踏み込んだ靴の中は、あっという間に水浸しになってしまった。今日に限って履いていたオーバーサイズのジーンズも重くて、運動不足の体で走るにはかなりきつい状態だ。そんな俺とは対象的にランニングが趣味のセイはどんどん遠ざかって行く。
もう、走って帰る意味もないくらい全身びしょ濡れだけれど、いま足を止めたら歩けなくなりそうだったので、必死に走った。まさかこの歳になってまで、徒歩一五分の道のりを雨の中全力疾走することになるなんて。
俺たちの自宅があるマンションに着く頃には雨は止んでいた。やっぱりスーパーで待っていたほうがよかったんじゃないか、と思いつつ家のドアを開けると、一足先に帰って風呂に入っていたらしいセイに出迎えられた。
「おう、おかえり。遅かったな。早く風呂入っちゃえよ」
「お前、走るのが速いんだよ。平気で置いて行きやがって」
洗濯が確定した靴を脱衣所に持ち込みながら、少し恨めしそうにして言うと、
「ははは。悪い、悪い」
と、笑いながら謝られた。これは絶対に悪いと思ってない。
「まだ降っていたか?」
「ちょうど、さっき止んだ」
「あー。じゃあ、待っていたほうがよかったな」
お前が言うのかよ。まあ、俺も引き留めなかったんだけど。なんで濡れた服ってこんなに脱ぎにくいんだろ。
「今後は折りたたみ傘を持ち歩こう……」
誰に言うでもなく呟くと、
「そんなこと三〇分後には忘れていると思うけどな」
と言う声が聞こえた。その通り、折りたたみ傘のことなんか綺麗に忘れた俺はまた、梅雨の急な雨に濡れて帰る羽目になってしまった。
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