六月二五日 オムレツの話
何気なく「今日何食べたい?」って帰宅前の同居人にメッセージを送ってみたところ、いつもは漠然としたことしか返ってこないのに、珍しくちゃんとしたリクエストがあったので、今日の夕飯はオムライスにした。
みんなはどんなタイプが好き? 俺はナイフで切って広げるふわふわとろとろなオムレツとシンプルなチキンライスのやつが好き。だけど、同居人のセイは硬めのオムレツとバターライスがいいらしい。
食事は当番制で、今週は俺の番。普段なら自分の食べたいものを作るところだが、せっかくのリクエストだ。あいつ好みのやつにしようと思う。
ボウルに入れた卵と牛乳、塩をかき混ぜ、熱してバターを引いたフライパンに流し込み、形を整えながら焼く。じゅうじゅうという音とバターの香りが食欲をそそる。ライスは冷や飯とバター、みじん切りにした玉ねぎと輪切りのソーセージを大雑把に炒めて作った。メインが比較的シンプルな味付けだからソースはデミグラスにした。
セイが帰ってきたのはちょうど盛り付けが終わったときだ。
「おかえり。ちょうど夕飯できたけど、すぐ食べるか?」
「や、速攻で風呂入ってくる」
「わかった」
そう言った通りに五分で上がって灰色のスウェットを着たセイは、テーブルに着き、俺が運んできた皿を見ると、
「あ、もしかしてリクエスト聞いてくれたの!」
と嬉しそうに笑って、スプーンを手にとった。
「しかも、あれが好きなやつじゃん」
「ん。言われたからな」
俺が向かい側の席に座ったのを確認するとさっそく、
「いただきます」
と、大きな口を開けて食べ始める。
「味、どう? 美味い?」
口が塞がっていて喋ることができないセイは、代わりに首をぶんぶん振って頷いた。喜んでくれているようでよかった。やっぱり、人が食べてくれると作り甲斐があるよな。夢中で料理を口に運んでいるのを見ながら笑っていると、
「言えば作ってくれるなら毎日食べたいもの言うかな」
「珍しかったから、今日だけだぞ。流石に毎日は嫌。自分でやってくれ」
冗談なのはわかっているけれど、はっきりと断っておかなくては。調子に乗られても困る。
「えー」
セイは大袈裟な声を上げて残念がった。
「ま、いいや。来週は好きなもの何か言ってくれな。俺が腕によりを掛けてつくるぜ」
「おう。考えとくわ」
こいつの料理は全部美味いから、何を作ってもらうか悩むな。
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